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【社労士監修】有給休暇が残ったまま退職するとどうなる?企業の対応やスムーズな消化方法

2022.05.09

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監修者:森田修(社労士事務所 森田・ミカタパートナーズ)

働き方改革関連法の成立にともなって、2019年4月より企業に対して、一定の条件を満たす労働者に対して年5日以上の有給休暇の取得が義務付けられました。

有給休暇は一定期間勤続した従業員に対して付与される休暇のことで、計画的に消化するのが理想的です。
とは言え、付与された年に全てを消化するのは難しいケースも。

残ったまま退職する場合の取り扱いについては、分かりづらい内容も含まれているため、対応に困る担当者様もいるのではないでしょうか。
トラブルに発展することを防ぐためにも、改めて理解を深めておきましょう。

有給休暇が残ったまま退職するとどうなる?

退職時に残った休暇の取り扱いに関しては、本人の意思、および企業の規定によって異なります。そもそも有給休暇は、従業員がもっている権利です。有給を取得するかどうかは、本人の意思によって決定します。従業員から休暇が申請されると、企業は拒むことはできません。基本的には、申請された日に休暇を与える必要があります。

一方で、企業は法定の付与日数が年10日以上の従業員に対して、最低でも年に5日の休暇を取得させなければいけません。この5日分に関しては、本人に有給休暇をいつ取りたいかという意見を聞かなければならず、またできる限りその希望に沿うように尊重する必要があります。また企業側から取得を強く促すことも可能です。残りの日数に関しては、従業員の権利であるため、基本的には本人が自由に使用できます。
また、取得の時期に関しても、特定の事情がある場合を除き、企業の都合などに合わせて、無理に休暇を取得させることはできません。

そのため、従業員があまり休暇を取得しなかった場合、退職時に有給が残ってしまうことがあります。もし、退職を予定している従業員から「残った日数を消化したい」といった申し出があれば、企業は消化させなければなりません。
残った休暇の取り扱いについては、押さえておきたいポイントが2つあります。企業の総務や人事担当の方は、把握しておきましょう。

消化できない分は消滅する

消化できなかった有給休暇については、退職日を迎えると同時に消滅します。企業は退職した従業員に対して、有給休暇を与える必要性がなくなるためです。法律によると、有給休暇とは労働者のリフレッシュ、および休養を目的としています。
退職したということは、すでにその会社においては労働者ではないため、休養などを与える必要性もなくなるということです。法律の目的にも矛盾していないため、消化できなかった有給休暇は消滅として扱われます。

もし、従業員が残り日数の消化を希望する場合は、退職日の前に消化することがポイントです。退職日より前であれば、まだ消滅はしていないため、残った日数の消化ができます。

有給休暇を消滅させないためには、余裕をもって計画的に消化させることが大切です。退職前にまとめて取得しようしても、引継ぎもしなければならず、退職までの消化が難しくなる可能性があります。
引継ぎ期間などを考慮し、従業員に対して普段から周知しておくと、退職時のトラブルを軽減することにもつながります。

なお、企業には休暇を付与することは義務付けられていますが、従業員から残りの有給休暇について消化の申し出がなければ、そのまま消滅させても法律上の問題はありません。

最終出社日の後に取得できる場合も

従業員が残りの有給休暇の取得を希望した場合「最終出勤日」と「退職日」を調整すれば、残った日数の消化も可能です。有給休暇の権利は、退職日まで消滅しないため、残った休暇の日数に合わせて、最後に出社する日と退職を設定すれば消化ができます。以下の例で見てみましょう。

例)有給休暇の残日数10日、12月31日退職予定の場合
12月21日(最終出勤日)→12月22日から12月31日(有給消化期間10日分)
→12月31日(退職日)

上記のように残りの日数に対して、最終出勤日を調整すれば、残りの日数を全て消化することも可能です。
ただしスムーズに調整するためには、事前に従業員と相談しなければなりません。余裕をもって相談しておかないと、日程が足りず、全ての日数を消化することが難しくなります。
退職日が間近に迫っているほど調整が難しくなるため、できる限り早い段階で相談することが重要です。後にトラブルにならないように、普段から周知しておくとよいでしょう。

なお企業側は従業員から有給消化の申し出があった場合、基本的に断ることはできません。まとめて取得されると業務に支障が出ると予測されるときは、事前に従業員と相談し、分散して取得してもらうことが必要です。

残りの有給休暇について企業側の対応は?

退職時における有給休暇の消化に関しては、企業側も事前に対応策を考えておくことが大切です。有給休暇は、申し出があれば企業は拒否できないため、事前に対策をしておかなければ適切な対応ができません。誤った対応をしてしまうとトラブルに発展することも多く、労働局などから指導が入る可能性もあります。

とはいえ、法律では休暇の取得を前提としているため、企業が取れる対応は限られています。用いることができる手段は限られますが、適切に対処するには理解しておかなければなりません。担当の方は、あらためて理解を深めておきましょう。

時季変更権で取得する日を変えてもらう

企業側は、従業員から休暇の申請があると拒否できませんが、取得する時期を変更してもらうことはできます。
「時季変更権」といい、法律で認められた権利です。ただし、権利を主張するためには、満たさなければならない条件があります。

権利を主張するには、業務に支障が出るなど適切な理由であることが条件です。明確な理由を示さなければ、時季変更権の主張はできません。
「正常な運営の妨げとなる」、もしくは「業務に著しく支障をきたす」のように、やむを得ない事情であることが必要です。当然ですが、「コストが掛かるから」などの理由による主張はできません。
ただし、法律でも具体的な規定があるわけではないため、状況によって判断が異なります。

加えて、変更する時期に関しては、退職日を過ぎた日時を設定することはできません。退職後は、有給休暇そのものが消滅するため、実質的に休暇の申請を拒否したのと変わらないからです。時季変更権を活用して日数の消化を調整する場合には、退職より前の日付に変更する必要があります。

有給休暇の買取について

基本的に有給休暇の買取はできません。買取を認めてしまうと、法律の目的に反する恐れがあるためです。
有給休暇は、従業員の休養などを目的としています。企業の都合で買取してしまうと、場合によっては休暇が無くなることになりかねません。休暇の申請を拒否したような形になり、本来の目的に反することにもなるため、法律によって買取は禁止されています。

ただし、退職後の消滅する日数分に関しては、買取が認められています。もともと消滅する分を買取しても、法律の目的に反しないと判断されるためです。そのため、消化できなかった日数を企業が買い取ることもできます。

なお、買取を実施するときには、就業規則に規定を設けることが大切です。規定が曖昧だと、従業員によって対応が異なるなど、トラブルに発展しかねません。
そうした事態を避けるためにも、有給休暇の買取に関する規定をきちんと整備しておきましょう。

残りの有給休暇をスムーズに消化するには

有給休暇をスムーズに消化するには、雇用形態ごとの規定を把握しておくことが必要です。企業では正社員だけでなく、派遣社員やパートタイム、およびアルバイトのように、様々な形態で従業員を雇用しています。
休暇の取得が進められているなか、正社員に関しては理解していても、他の雇用形態に関しては理解が進んでいないケースもよくあります。

スムーズな有給休暇の消化を実現するためには、正社員以外の規定に関しても、理解しておくことが必要です。対応に困ることがないように、雇用形態ごとの特徴を理解しておくとよいでしょう。

派遣労働者の場合

派遣労働者の場合であっても、有給休暇は付与されるため、退職時にまとめて消化することも可能です。ただし、派遣労働者は、自身が所属する派遣会社に申請しなければなりません。
誤解されることもよくありますが、派遣社員は派遣会社の従業員です。働いている場所は派遣先の企業ですが、雇用は派遣会社がしています。そのため、退職の申し出、および有給休暇の申請を行う場合には、労務担当者を通じて派遣会社への申請が必要です。

また有給休暇が付与されるためには、定められた条件を満たさなければなりません。派遣社員の場合、複数の派遣会社に登録しており、それぞれ短期的に働くようなケースがあります。短期的な労働の場合、条件に満たない恐れがあるため、注意が必要です。

派遣社員が有給休暇の付与をされるためには「同一の派遣会社で、継続して6ヶ月以上勤務」することが必要となります。派遣社員として働いている期間が対象となる訳ではありません。派遣社員として働いている方は、把握しておきましょう。

なお、派遣先が変わっても、同じ派遣会社であれば継続した勤務となるため、有給休暇は付与されます。また短時間勤務の場合だと、労働時間や勤務日数によって、付与される日数が変動します。

パートタイム・アルバイト勤務の場合

パートタイム、およびアルバイト勤務の方も有給休暇は付与されるため、退職時にまとめて消化することが可能です。そもそも有給休暇は雇用形態に関係はなく、条件を満たせば全ての従業員に付与されます。

ただし付与される日数に関しては、正社員の方と異なる場合があります。付与される日数は、雇用形態だけでなく、勤務日数や勤務時間によっても変動します。1週間の所定労働時間が30時間以上の場合若しくは週所定労働日数が5日以上で働いているのであれば、付与される期間および日数は正社員と同じ条件です。
一方で短時間勤務などフルタイム以外の場合では、勤務日数や勤務した時間によって、細かく規定がされています。
つまり、雇用形態によって一律に規定されている訳ではなく、労働時間や日数によって付与される日数が変動するということです。(詳しくは、「PDF年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています/厚生労働省」をご参照ください。)
従業員によって付与される日数が異なる場合があるため、まずは従業員ごとの労働時間、ならびに勤務日数を把握しておく必要があります。

なお付与された日数に関しては、退職前に消化することも可能です。加えて、企業が買取の制度を設けている場合には、消化しきれなかった日数の買取もできます。

従業員の有給休暇は計画的に消化させよう

有給休暇は、計画的に消化させることが大切です。退職前にまとめて消化しようすると、完全には消化しきれない場合があり、トラブルにも発展しかねません。普段から従業員に対して、分散した取得を促すことが大切です。

とはいえ、計画的な取得を促したとしても、従業員が休暇を取りづらく、消化が進まないことがあります。特に、緊急性を要する場合がある看護師、および公務員でも警察官などシフト勤務の場合、休暇を取りづらいと感じる方もいるようです。
実際にネット上でも「取りづらい」といった声が少なからず見受けられます。

だからといって、無理やり取得させることもできず、対応に困る場合もあるでしょう。
このような場合には、休暇を取得しやすい職場の雰囲気づくりが大切です。企業全体が休暇を取得しやすい雰囲気であれば、従業員も休暇の申請がしやすくなるでしょう。

なお、どうしても計画的な休暇の取得が進まない場合「計画的付与制度」の活用も有効です。付与された日数から5日を除き、残った日数については、計画的に振り分けて付与できます。

この制度を導入するためには「労使協定の締結」と「就業規則による規定」が必要です。労使協定とは、従業員との間に結ぶ同意書のようなもので、双方の合意によって成立します。つまり、制度を導入するには、従業員側の同意が必要ということです。
平行して、就業規則に規定しなければなりません。トラブルにならないように、明確に規定しておくことが大切です。2つの条件を満たせば、制度の導入ができます。

労使協定に関しては、役所などへ届け出する必要はありませんが就業規則に関しては届け出が必要になります。ですが、適切に対応しておかないと、後ほどが入ったときなどに指摘を受けることになるため、注意しておきましょう。

最後に

有給休暇が残ったまま退職する場合の、有給の取り扱いについて紹介しました。
退職時の有給休暇は基本的には退職日以降は消化できませんが、最終出勤日以降、退職日までの間に消化することは可能です。

とは言え、従業員の退職時にまとめて取得させるのは業務や他の従業員の休暇に支障が出ることもあります。
計画的に消化するよう促していきましょう。

【参考資料URL】

ホームページ/厚生労働省」

年次有給休暇取得促進特設サイト/厚生労働省」

年次有給休暇時季指定義務/厚生労働省」

年次有給休暇の付与日数/厚生労働省」

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