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【社労士監修】有給休暇の義務化とは?対象者や企業の対応について解説

2021.09.15

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監修者:吉川明日香(社会保険労務士・ 吉川社会保険労務士事務所)

2019年4月1日から「働き方改革関連法」が順次施行されているのをご存知ですか?
政府が推進する働き方改革に関連する法案が次々と改定されています。
なかには知らなかったでは済まされない罰則があるものも。そのひとつが「年次有給休暇の取得義務化」です。

ここでは「年次有給休暇の取得義務化」によって企業が知っておくべきポイントについて解説していきます。義務違反にならないよう基準を理解していきましょう。

有給休暇の義務化とは

そもそも有給休暇とは何でしょう。労働基準法第39条(※1)によると、従業員の心身のリフレッシュを図ることを目的として、一定の要件を満たす従業員に対し年次有給休暇を付与するよう定められています。

具体的には、以下のような要件があります。

  • 雇い入れ日から起算して6ヶ月を超えて継続勤務していること
  • 出勤率が8割以上であること
  • パートタイム等など所定労働日数が少ない従業員は所定労働日数に応じた日数の有給休暇を比例付与する

上記の要件で付与されるもののうち、義務化されたのは年次有給休暇が10日以上付与される従業員(正社員・有期雇用・短時間勤務含む)です。
基準日*から1年間のうち有給休暇の消化日数が5日未満の従業員に対し、本人から意見を聴いたうえで、企業が日にちを決めて有給休暇を5日以上取得させることが義務づけられました。

*基準日:有給休暇の権利が従業員に発生する日のこと
例)2021年4月1日入社の従業員→基準日は6ヶ月後の10月1日

対象は、前年度繰越しと今年度付与の合計日数ではなく、その年の付与日数が10日以上の従業員です。消化日数に関しては前年度の繰越分を今年度5日以上取得すれば問題ありません。

たとえば前年度繰越分が10日、今年度付与分が20日で、今年度の有給休暇が合計30日あるなかで、その年に5日以上取得していればOKとなります。

有給休暇の義務化に関しては、大企業・中小企業の差はなく、一般社員も管理監督者も同様に義務付けられています。

従業員が有給休暇5日以上の取得義務を満たしているか、企業が管理していくことが重要であることから年次有給休暇管理簿の作成と3年間の保存も義務化されました。

有給休暇義務化の対象者と付与される日数

年5日以上の有給休暇の取得が義務化される対象者について具体的に見ていきましょう。
対象となる条件には以下4つのポイントがあります。

1.勤続6ヶ月が経過した正社員またはフルタイム勤務の有期雇用社員等
2.勤続6ヶ月が経過している週5日以上または週30時間以上勤務のパート社員等
3.勤続3年半以上が経過している週4日勤務のパート社員等
4.勤続5年半以上が経過している週3日勤務のパート社員等

週2日以下の勤務のパート従業員等は10日の有給休暇が発生することがないので対象外です。
付与される日数はそれぞれ勤務年数・雇用形態・勤務パターンによって変化します。

フルタイム勤務の場合

フルタイム勤務の場合勤続6ヶ月、全労働日の8割以上の勤務で最低10日の年次有給休暇が付与されます。企業によって勤続年数ごとの付与日数に差はありますが、上限は勤続6年6ヵ月で年20日です。原則となる付与日数は以下になります。年次有給が発生する勤続6ヶ月後には全員が有給休暇の取得義務化の対象となります。

出典:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説/厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署(※2)

パートタイム勤務の場合

パートタイム勤務など所定労働日数が少ない従業員の場合、所定労働日数によって年次有給休暇の日数が定められています。これを「比例付与」と言います。義務化されたのはこのうち年間に付与される有給休暇が10日以上の従業員です。フルタイム勤務者のように全員が有給休暇の取得義務化の対象とは限らないので注意しましょう。

出典:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説/厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署(※2)

パートタイムの週5日勤務(1年間の所定労働日数217日以上)または所定労働時間が週30時間以上の方はフルタイム勤務の場合と同様に勤続6ヶ月後から義務化の対象となります。

個人事業主の場合

有給休暇の義務化は、個人事業主だからといって無視していい問題ではありません。

個人事業主の場合、従業員の有無が義務化になるかのポイントとなります。

  1. 個人事業主が一人で働いている場合
    従業員を雇わず一人で働いている場合は、労働者がいないので有給休暇取得義務化の対象にはなりません。
  2. 本人と従業員(アルバイト1人でも)で働いている場合
    従業員が一人でもいる場合は、義務化の対象となります。所定労働日数及び勤続年数に応じて有給休暇を付与。有給休暇が10日以上の付与日数となる場合は、5日の取得義務が発生します。

有給休暇の義務化による企業の対応方法

有給休暇の取得を推進していく上で企業はどのように対応していくことができるのでしょうか?

年次有給休暇を管理しやすくするための方法として厚生労働省の資料「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」(※2)の中でも基準日を月初に統一する方法が紹介されています。これにより入社が月の途中であっても管理が統一しやすくなります。

基準日を設定した後の主な対応方法についてみていきましょう。

一括指定方式

毎年基準日において、従業員の有給休暇の取得率を問わず年間の5日分の有給休暇の取得日をまとめて指定する方式です。主に製造部門など、操業を止めて一斉に全従業員が休める職場で活用されています。

この一括指定方式は、全従業員に個別で意見を聴く必要があり手間はかかりますが、取得日の指定漏れがなく、確実に最低限の有給休暇の取得が確約されます。

個別指定方式

基準日から、一定期間が経過したタイミング(例えば半年後など)に従業員の有給休暇消化日数を確認し、5日未満になりそうな従業員にのみ取得日を指定する方式です。

一括指定方式と同様、対象者に個別に意見を聴く必要性に加え、消化日数の管理が必要となります。

計画年休制度

計画年休制度は、正式には「年次有給休暇の計画的付与制度」と言います。
企業と従業員の代表における労使協定により、各従業員の有給休暇のうち5日を超える残りの日数についてあらかじめ日程を定め、計画的に休暇取得日を割り振れる制度です。

たとえば有給休暇が12日の場合以下のようになります。

前年度の繰越し日数がある場合は、繰越分を含めた付与日数から5日を引いた残日数が計画的付与の対象となります。

計画年休制度には、いろいろなパターンがあります。

  • 全社一斉取得(全社で一斉に特定の人を有給休暇とする日を定める)
  • 部署ごとに取得日を分ける(部署ごとにまとめて有給休暇日を定めて取得)
  • 有給休暇の取得日を個別に決定(従業員ごとに取得日を決定する)

計画年休は労使協定によって定められ、前もって計画的に休暇日を割り振るため、個別に意見聴取をする必要がないこと、従業員もためらいを感じずに休めることがメリットです。

時季変更権を活用する

従業員の権利として原則は有給休暇日を自由に指定できる従業員の「時季指定権」が認められています。取得の際、理由などの申告も必要ありません。とはいえ、企業の繁忙期などで休まれては困るケースも出てきます。そんな時に企業側に与えられている権利が「時季変更権」です。

「時季変更権」とは従業員から申請のあった有給休暇取得日を企業側が変更する権利のこと。
たとえば企業の繁忙期に取得希望があった場合、取得日の変更をお願いできる権利です。

時季変更権は、労働基準法第39条5項(※1)で以下の様に定められています。

使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

時季変更権については従業員の時季指定権と相対し、労使間のトラブルに発展してしまう可能性もあるので慎重に対応すべきです。

企業が時季変更権を行使できるのはあくまで「事業の正常な運営を妨げる場合」のみになります。時季変更権を行使する前に代替勤務者の確保など企業側も努力する必要があり、それでも難しい場合に限り行使するようにしましょう。

社内通知文でスムーズに導入する

休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項(労働基準法第89条)(※1)であるため、有給休暇の義務化に伴い、以下について記載の追加が必要となります。

  • 一括指定方式・個別指定方式の場合:対象従業員の範囲や指定方法を追記
  • 計画年休制度の場合:「書面による労使協定により、各従業員の5日超え有給休暇日数についてあらかじめ時季を指定して取得させることがある」などの文言の記載を追記

有給休暇を取得するのが義務であることを企業側がきちんと周知することは、お互いに有給休暇を取得しやすい職場環境を整えることに役立ちます。
周知の際は説明会や社内通知文などで、就業規則の改定箇所及び有給休暇の義務化の内容について、従業員に認識を促しスムーズに導入していきましょう。

有給休暇の義務化は中小企業にも適用

有給休暇の取得義務化は、企業の規模による違いはなく、中小企業にも適用されます。

厚生労働省の「働き方改革関連法に関する ハンドブック」(※3)から働き方改革関連法の全体像をポイントのみ紹介します。

  1. 時間外労働の上限規制を導入(大企業2019年4月1日施行)(中小企業2020年4月1日施行)
  2. 年次有給休暇の確実な取得(2019年4月1日施行)
  3. 中小企業の月60時間超の残業の、割増賃金率引上げ(中小企業2023年4月1日施行)
  4. 「フレックスタイム制」の拡充(2019年4月1日施行)
  5. 「高度プロフェッショナル制度」を創設(2019年4月1日施行)
  6. 産業医・産業保健機能の強化(2019年4月1日施行)
  7. 勤務間インターバル制度の導入促進(2019年4月1日施行)
  8. 正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間との不合理な待遇差の禁止 (大企業2020年4月1日施行)(中小企業2021年4月1日施行)

中小企業の有給休暇の義務化においては、猶予なく2019年の施行時に大企業と同様に義務が発生しています。大企業と中小企業で施行時期がずれている他の項目と混同しないよう注意しましょう。

有給休暇の取得を促すメリット・デメリット

企業が率先して有給休暇の取得を促すことについて、従業員と企業のそれぞれのメリットとデメリットを見ていきます。

有給休暇を取得させるメリット

従業員が有給休暇を取得するメリットは、心身の疲労回復やリフレッシュができワークライフバランスを保てることです。心身の疲れが取れれば労働意欲も回復し、業務効率や生産性のアップが期待されます。

企業としては、有給休暇の義務化で取得率が高くなれば、働きやすい環境をアピールしやすくなり、優秀な人材の確保や採用活動に役立ちます。
有給休暇の取得が定着すると、休暇を取る従業員の業務フォロー体制も構築され、人材育成にもつながるでしょう。

また有給休暇の取得を従業員に促すのは、昨今注目されている企業の「健康経営*」にも有効です。

*健康経営とは、従業員の健康増進を重視し、健康管理を経営課題として捉え、その実践を図ることで従業員の健康の維持・増進と企業の生産性向上を目指す経営手法のこと。

有給休暇を取得させるデメリット

次にデメリットについてみていきます。
中小企業など少ない従業員で業務をこなしている場合は、誰かが休むと、残りの従業員の負担が増える恐れがあります。有給休暇が業務の低下につながらないように、取得の時季を考慮することで回避しましょう。

また企業にとっては、有給休暇を取得している従業員にも給与の支払いが発生することから、余計なコストが掛かると思うかもしれません。ですが休暇取得による生産性の向上を考えると、むしろ投資すべき費用であると言えます。

現在すでに勤務票や勤怠システムを活用している企業が多いのではないでしょうか?
有給休暇の消化率を管理する方法については、項目を追加または、既存のものを活用することでコストは抑えられます。

義務化を守らないとどんな罰則があるか

対象従業員に年5日以上の有給休暇取得をさせなかった場合の、法律で定められた罰則を見ていきます。
厚生労働省の資料では罰則について以下のような表で示されています。

出典:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説/厚生労働省 (※2)

違反した場合の罰則は主に「30万以下の罰金」となっています。
この金額は1人当たりなので、例えば取得できなかった従業員の人数によって実際の金額は変わります。
10人の場合:
最大30万円×10人=300万円
100人の場合:
最大30万円×100人=3,000万円
従業員の人数によっては小さな額では済まなくなるので、遵守するよう注意してください。

ちなみに付随する「有給休暇管理簿の作成・3年間の保管義務」については違反に罰則はありません。とはいえ、有給休暇の取得状況を管理する上で有効活用できるものなので、作成・保管しておきましょう。

最後に

年次有給休暇の義務化について、対象者や企業の対応をご紹介しました。

企業が義務化に対応するのは、従業員の健康維持・増進に役立ち生産性の向上にもつながる有効な取り組みです。的確に対応し、従業員が休みやすい環境を整えることで働き方改革を推進していきましょう。

参考資料
(※1)
労働基準法/厚生労働省
(※2)
年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説/厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
(※3)
働き方改革関連法に関するハンドブック/厚生労働省

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