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【社労士監修】 法定福利費と福利厚生費の違い

2021.07.19

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昨今企業は従業員の健康や生活を豊かに保つための福利厚生制度に力を入れはじめています。節税対策にも活用できる福利厚生。では、経理処理はどうなるのかをご存知ですか?

実はすべてが福利厚生費として非課税となるわけではなく、種類や要件によって給与課税や勘定科目が変わってきます。今回は「法定福利費」と「福利厚生費」に着目し、その違いと取り扱いについて解説していきます。


監修者:久米和子(Reiwa社会保険労務士事務所)

法定福利費とは?

福利厚生制度には法律で定められた「法定福利厚生」と企業の裁量による「法定外福利厚生」の2種類があります。このうち「法定福利厚生」にあたる費用が「法定福利費」です。

法定内福利厚生 法定外福利厚生

法定福利費は簡単に言い換えると、従業員のために企業が払う保険料(社会保険料・労働保険料など)のことです。保険料はその種類に応じて、企業と従業員がそれぞれの割合で負担し支払う義務があります。

例えば、企業の割合は健康保険・厚生年金保険・介護保険は半分を負担。雇用保険は一定額。労災保険は全額などです。企業が支払う部分の費用を、会計上の勘定科目で法定福利費と処理し、従業員の負担分は給与天引きの場合、預り金勘定として計上します。

法定福利費と福利厚生費の違いは?

法定福利費と似た言葉で「福利厚生費」があります。

先ほど福利厚生制度には「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」の2種類があると説明しました。そのうちの「法定外福利厚生」にあたる費用が「福利厚生費」です。

「法定福利費」と「福利厚生費」の違いについて解説する前に、押さえておきたい基本的な語句を説明します。

(1)勘定科目

企業の取引によるお金のやりとりを、どんなことで発生した取引か明確に仕分けするために使われる項目のこと。家計簿をイメージするとわかりやすいかもしれません。家計簿は自分がわかる言葉で自由に記載できますが、企業は対外的にも収支の内容を見せる機会があります。

そこで認識を統一するため「勘定科目」という共通の言葉が決められているのです。例えば電車賃は「旅費交通費」、文房具は「消耗品費」、商品を買ったら「仕入」売ったら「売上」と記載するなどです。

(2)社会保険

社会保険は、国の定める社会保障制度の1つです。公的医療保障制度(健康保険・介護保険・共済組合など)と公的年金制度(国民年金・厚生年金保険・共済年金など)を合わせたもの。広い意味では、<健康保険・年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険>を含めた総称のことを意味します。

企業で使われる場合は、従業員を対象とした「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」のみを指していることが多く、要件に該当する従業員は必ず加入しなければなりません。

(3)労働保険

労働保険とは「労災保険」と「雇用保険」を総称した言葉です。従業員の雇用と安全を守るための保険で、広い意味での社会保険の一部になります。昭和50年から全面適用とされた保険ですが、現在でも相当数が未手続となっているため、平成17年からは加入実施の強化(労働保険未手続事業一掃対策として)が行われています。未手続のままにすると追徴金を課せられることもあるので要注意です。

(4)預り金勘定

預り金勘定とは、企業が従業員に給与を支払う際に、所得税や社会保険料などの金額を天引きしたときに使う勘定科目のことです。内容に応じて、従業員預り金・所得税預り金・社会保険料預り金などと使い分けることもあります。預り金ですので、のちに本人に返金または税務署や役所などに納付する義務があるものです。

「法定福利費」にはどのような種類があるのか詳しく見ていきます。

・健康保険

“労働者やその家族が病気やけがをしたときや出産をしたとき、亡くなったときなどに、必要な医療給付や手当金の支給をすることで生活を安定させることを目的とした社会保険制度”(※1)。

保険者(保険を提供する側)は、「協会けんぽ」または「健康保険組合」のどちらかです。国が保険者となる「国民健康保険」とは異なります。

・厚生年金保険

“労働者が高齢となって働けなくなったり、何らかの病気やけがによって身体に障害が残ってしまったり、大黒柱(労働者)を亡くしてその遺族が困窮してしまうといった事態に際し、保険給付を行う制度”(※1)。

「国民年金保険」にプラスして積み上げることのできる年金保険です。

介護保険

高齢者や特定疾患を抱える患者など、介護が必要となった人を社会全体で支えるための保険。40歳以上になると介護保険の加入が義務となり、保険料を支払うことになります。

・雇用保険

“雇用保険は、生活の安定と就職促進のために労働者が失業したときや教育訓練を受けるときに、給付を行う保険制度”(※1)。育児や介護で長期休業する場合も各種手当が給付されます。

・労災保険

“労働者の業務が原因でけが、病気、死亡(業務災害)した場合や、また通勤の途中の事故などの場合(通勤災害)に、国が事業主に代わって給付を行う公的な制度”(※1)

・子ども・子育て拠出金

国や自治体が行う子育て支援サービスのため企業から徴収されます。かつて児童手当拠出金と呼ばれていたものです。従業員の子どもの有無は関係なく、事業主から徴収されます。

福利厚生費に該当する支出

「福利厚生費」に該当する支出には要件がそれぞれにあります。法定外福利厚生は企業によってさまざまなので、主なものを例に見ていきましょう。

1.社宅費

賃貸料相当額50%以上を従業員から徴収している場合には福利厚生費として計上可能です。賃貸料相当額とは、家賃そのものではなく所得税法により算出される金額となります。

算出方法やわかりやすい例が、国税庁の「使用人に社宅や寮などを貸したとき(※2)」に掲載されていますので参考にしてください。住宅手当として給与に上乗せして支給する場合は、福利厚生費ではなく給与の一部とみなされますので、全額課税対象になります。

2.通勤手当

通勤手当(通勤費)は、職場に通勤する際にかかる費用を企業が補助するもので、一定の限度額を超えなければ「福利厚生費」として計上可能です。

限度額を超えると課税対象になります。非課税限度額は交通手段や距離によってそれぞれ決められています。国税庁のホームページから「通勤手当の非課税限度額の引き上げについて」(※3)や「No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当」(※4)をご確認ください。

交通費は、出張や営業などで交通機関を利用した際、移動にかかった費用のことです。交通費も非課税ですが、勘定科目は「旅費交通費」になります。混同しないように気を付けましょう。

3.食事補助(※5)

食事補助を福利厚生費として扱うためには以下の2つの要件があります。

(1)従業員が食事費用の半分以上を負担していること
(2)従業員1人あたりの企業負担額が月額3,500円以下であること

残業や宿日直出勤の場合は、現物支給に限り全額を福利厚生費として計上可能。深夜勤務者の場合は現物支給が難しい場合に限り、1食あたり300円以下の現金支給が福利厚生費として認められ、非課税となります。

4.健康診断

健康診断を福利厚生費として計上するためには以下の要件があります。

(1)全従業員を対象とすること
(2)社会通念上、常識と考えられる範囲の金額であること
(3)企業が診療機関に直接支払いを行うこと

明確な金額の設定はありませんが、あまりにも高額な健康診断や人間ドックを受診する場合は、役員・従業員の給与としてみなされ課税されます。

費用を従業員が立て替えて支払ったり、従業員に現金で支給したりする場合は給与課税され福利厚生費とは認められません。企業から診療機関に直接支払いを行うようにしましょう。

<参考資料>
※1:人を雇うときのルール/厚生労働省
※2:No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき/国税庁
※3:通勤手当の非課税限度額の引上げについて/国税庁
※4:No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当/国税庁
※5:No.2594 食事を支給したとき/国税庁

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